「変な顔だな」
「失礼な。狐狸妖怪の言葉がある通り、君が狸なら、私は当然狐だろう」
一刀両断する雷蔵に三郎が涼しい顔で屁理屈をこねる。
「八左ヱ門の顔で変な顔をするのは失礼じゃないのか」
「なら、雷蔵の顔を借りている時はなるべくしない――ようにする――ように気をつける」
「今年に入って一番信用できない宣言を聞いたな。で、」
割り込んだ兵助が、三木ヱ門の背中に乗せた手の指に軽く力を入れた。
「裏予算案とはうまく名付けたものだ。ついでに、何をどこまで知っているのか吐いて貰いたい」
痛くはない。しかし楔を打ち込まれたような圧迫感が首の骨に加わり、三木ヱ門は思わず膝に置いた両手を突っ張った。
またこのパターンか。
吐けだの喋れだの、今日は色々と上級生に強要されてばかりだ。……いい加減腹が立ってきたぞ。
「これもお約束の返しですが、そう言われて素直に喋るとお思いですか」
「おや、強気だ」
面白そうに三郎が言う。それには取り合わず、兵助はあっさりと「思わない」と答えた。
「喋らないならそれでもいい。ただし、誰にも、だ」
ここにいる五年生を除く他の誰にも、勿論、会計委員長にも。
「あの人は勘がいい。善法寺先輩が来ていないかと焔硝蔵へ訪ねて来られた時、中に"伊助"がいたのを悟られた可能性がある」
「中と外で喋っちゃってたしなぁ」
伊助の声を真似てそう言った三郎が、見上げた三木ヱ門の顔を見て舌を出した。
「本物はその頃、ここで雑巾を縫っていた。知ってるよ。私が頼んだんだから」