「暗黙の了解だと思って言ってなかったけど、変な動きはしないでくれなー。お前はもう背後を取られている、と言えば意味は分かるだろ?」
首と肩を繋ぐ腱を瞬間的に鷲掴みにして捻り上げた兵助が、その手でぽんぽんと三木ヱ門の首の裏を叩く。さっきまでの雑談そのままの平然とした口調と、骨の中を炎が走り抜けたような感覚が残る腕の熱さがうまく頭の中で合致せず、三木ヱ門は一瞬混乱した。
自分と団蔵は五年生に見下ろされながら、人と壁に前後左右を囲まれて身を縮めて座っている。今よりほんの少し前に、ちらりと想像した狐狸と狢の図さながらに。机を挟んだ正面に雷蔵、すぐ左に三郎、真後ろには兵助がいて、立ち上がらないようにと首を抑えられている――
王手。
次の一手で王が陥落してこの対局は終わりと宣言された、と言うことは、つまり。
「もしかして、私、詰んでますか」
「もしかしなくても詰んでるよ」
「うへぇ……」
「現状、君らは人質だ」
すまないねと言って、雷蔵が眉の両端を下げる。正しくない計画をしているのは重々承知だが、四年生に揺さぶられたくらいで内情をぺらぺら話すほど小胆でもない。君は私を確保したつもりでいたけれど、木菟引きが木菟に引かれるってやつだ。
「……たぬき」
「へ?」
三木ヱ門がギリギリまで低くした声で毒づくと、雷蔵がきょとんとした。