それはひとまず聞き流し、三木ヱ門は額越しに後ろを見るようにして少し頭を逸らした。
「私が焔硝蔵を覗いた時には、在庫確認をしていらっしゃいましたよね。伊助と」
「そうだったっけ?」
そらとぼけた返事が降って来る。
「田村が俺に"三郎が伝染ったのか"って言ったのは覚えてるんだが」
「それを感染性三郎症候群――呼び捨てで申し訳ありません――と仰ったのは久々知先輩です。竹谷先輩は突発性と言い換えておられました」
「聞き捨てならないな。私は流行病か何かか」
「流行性三郎症候群? 嫌だな、それ」
首を傾げてぽつんと雷蔵が言い、三郎が「お前もか」と絶望的な声を上げて嘆く。冗談なのか本気なのか、疫病封じの御札を貼ってみようかと雷蔵に真顔をされて、その疫神扱いに若干本気でへこんだらしい。
「皆、ひどくないか、私の扱いが。倒置法で強調しちゃうぞ。私の扱いが」
「まあねえ。普段の行いの成果だよね」
「私が何をしたって言うんだ……」
「どの口が言った」
口を挟みかねて困惑する三木ヱ門をそっちのけにして、また喧々と喋り始める。
もしかしてこれは意図あっての会話ではなく、五年生は通常の状態がこの調子なのか。そう言えば、のらりくらりの瓢箪鯰を決め込むことを指して三郎症候群と表現した五年生の3人が3人とも「嫌だな」と言ったな。
……しかし、うるさい。
いっそ露骨に耳を塞いでみようかと三木ヱ門が両手を上げかけた途端、鋭い痺れが肩から腕へ走り抜けた。