「痛っ――くないけど、変な略語を作るな」
「"さぶろうるさい"から十段階変化する、協会からの警告だ」
「いつ決めたそんなの。と言うか協会って、何のだよ」
「お前が警告を受けても自制しないで最上級の"さぶろうとましい"まで到達したら、十日間どんな変装をしてもスルーの刑だからな」
「雷蔵、兵助が意地悪だ。お母さんはあなたをそんな子に育てた覚えはありませんよ」
「俺もこんな母に育てられた覚えがなくて幸いだよ」
「それに私も協会員だよ、三郎」
「だからそれって何の協会なの」
「第二段階、さぶろうっとい。えい」
「蹴るなっての! いじめかっこ悪いぞ」
……なんなんだこの会話。
頭の上で丁々発止と飛び交う、しかし緊張感のない会話を神妙な態度で拝聴しつつ、三木ヱ門は内心で頭を抱えた。
ただの五年生同士の馬鹿話にしか聞こえない。だがこの状況で呑気な雑談をする理由がない。
このやり取りの陰に情報を含ませていると思わせて撹乱しているのか、裏予算案を追及しようとする三木ヱ門の気概をからかいのめして挫こうとしているのか、――あるいはこれも、隠し事を抱えているがゆえの緊張の裏返しなのか?
「潮江先輩が焔硝蔵に立ち寄ったと仰っていました」
小さい声で三木ヱ門が呟くと、騒々しく喋り続けていた3人の五年生は一斉に口を閉じた。集中砲火のような視線を感じながら、机の上に目を落として三木ヱ門は続ける。
「そこで何かがあったとは聞いていませんけれど。――そう言えば久々知先輩、伊助は一緒ではないのですね」
「ボクイスケデス」
三木ヱ門の左側で子供っぽい高い声がぼそっと言った。