「だから団蔵が出て行った少し後に俺たちも図書室を出て、ちょうど廊下の角を曲がって行った雷蔵のあとをつけた」
作戦行動訓練中の状況報告のように明瞭な口調で兵助が言う。
書庫へ蔵書を取りに行っているという雷蔵を待って図書室にいたのだから、その場で声を掛けて呼び止めても良かった。しかし、ちらっと見えた雷蔵の表情はひどく緊張していて、雷蔵にとって好ましからざる事態に陥っていることを示していた。
そして雷蔵の代わりに団蔵が巻物を持って来たことが、どうしても引っ掛かった。
「通りがかりの下級生に用事を頼むなんてことは珍しくないのに、――会計委員だから?」
この一帯だけ重力が増したような圧迫感のさなかでうつらうつらしている団蔵を睨みつつ、三木ヱ門が低い声を出すと、三郎が「ふーん」と気の抜けた声を漏らした。
「なるほど。鎌をかけて来たね」
「私が何を知っているとお考えです?」
「さてね。君の顔を真似ることはできても、頭の中までは写し取れないからな。私には分からないよ」
そう言って、三郎はわざとらしいほどに芝居がかった含み笑いをした。両手を腰に当てた雷蔵が呆れ顔で眉を寄せたのが見えたのか、その一本調子な笑い声はすぐに止まる。
三木ヱ門は首を回し、正面に立っている雷蔵へ顔を向けた。
「不破先輩はお二人がつけて来ていたことに気付いておられたんですか」
いくらか気後れしたふうに三木ヱ門を見下ろして、雷蔵が横に首を振る。
「いや、全く。さっき廊下から聞こえた足音で初めて気が付いた」
「えっ、そうだったのか? つれないなぁ。気配くらい感じ取ってくれたっていいじゃないか」
「さぶろうるさい」
三木ヱ門の背後で、兵助が足を伸ばして三郎を蹴った気配がした。