「書き写すにも紙や墨代はかかるし――ところで図書委員会は本の修理をするから、紙の扱いには慣れている」
虫食いや破れた部分を似た色調の紙で接いだり、綴じ糸が綻びたのを縫い直したり、そのまま触ったら崩れてしまいそうな古い書き物を裏打ちして表装したり。
筆の先から垂れた墨が染みたのか、小さな穴が空いた跡をとんとんと叩きながら雷蔵が言う。
「"雀躍集"のお陰で、どうしても削れない必要経費の分まで予算が飛んでしまった。新しい本を買えないのは痛いけれど、修理費用がなくて壊れた本が壊れたままになっているのはなお痛い」
傷みがあまりひどいものは開架にしておけず、一度書庫に下げなければならない。そうやって本棚に並ぶ書物の数が減ると、残っている少ない冊数だけで生徒の間を循環することになるわけで、今は無事な本も傷や汚れの付き方が早まってしまう。それでまた本棚から本を退避させたら、堂々巡りだ。
これはどうやら――と、頭が揺れ始めた団蔵を横目で睨み三木ヱ門は考えた。
生物委員会を巻き込まなかったことについては、雷蔵は言及していない。三木ヱ門が口にしなかった推測部分が合っているからかそうでないのかは分からない。
しかし、使い道が決まっていた予算を他のことに費やされて首が回らない状況は図書委員会も同じだと言っている。
補填の為に生物は用具にイカサマ勝負を仕掛けて予算を吸い上げた。それは「ずるい」。しかしバイトに励む用具は「立派だ」。さらに他の委員会から予算をぶん取ろうとはせず、自分たちにできることをしてコツコツ稼いでいるから。
五年生の裏予算案ではなく、反古紙が関わる図書委員会の謎の活動について話しているのか? それは今問題にしないとこちらから言ったのに。それとも、反古紙の行方が裏予算案に繋がってくるのか――すると、やはり学外に協力者たる紙買おうが存在する?
「次手だよ」
「えっ」
いつの間にか話を止めていた雷蔵が、声を掛けられて小さく跳ねた三木ヱ門を見てにこりと笑った。