ドリルの端をつまんだまま、視線がうろうろと大小とりどりなひらがなの上を滑っている。いろはにほへとちりぬるを――と小さく口ずさんで、雷蔵は不意に顔を上げた。
「私たちはずるい企みをしたと思うよ。他の委員会の予算を掠め取った生物もやり方がずるい。それに比べて、用具委員会は立派だ」
予算を取られて素寒貧になったことに文句ひとつ言わず――もっとも勝負を受けた委員長は後輩たちに一言二言くらい苦言を呈されているかもしれないが――黙々と学外でのバイトをこなして穴埋めに励んでいるのだから。
「自分たちにできることをしてその対価を受け取るのが、正しい予算の補い方、だと思う。だけど図書委員会は、予算がないからといって図書室の棚に並べる本を自分たちで執筆することはできない。どこかから本を借りてきて書写をするのがせいぜいだ。それにも限度がある」
雷蔵が何を話そうとしているのか測りかねて、どこに真意があるのか探りながら三木ヱ門はじっと聞き入っている。ふと雷蔵の横を見ると、さっきからいやにおとなしくしていた団蔵は、かろうじて正座の姿勢は保っているものの目を半分閉じかけていた。
額を小突いてやろうかと思ったが、それで雷蔵が話を止めてしまっては都合が悪い。先輩に寄りかかってくれるなよと念じつつ、三木ヱ門は強いて雷蔵の声に注意を集中する。