わざと余らせた予算を会計委員会に申告せず、手元に残す計画だと雷蔵が認めた――ということでいいのか。それは火薬なら現物のない「鳥の子玉代」で、学級委員長なら新品を買う必然性のない「つづら代」のことか。
三木ヱ門は収支報告書を読んだから、各委員会に不審な支出があることを知っている。
しかし他の委員会がどんな手段で予算を残したかということは、五年生同士で互いに把握しているんだろうか?
素知らぬ顔でぺらぺらとドリルをめくっている雷蔵をこっそり窺い、三木ヱ門は考えた。
例えば今のように裏予算案について第三者に嗅ぎ付けられた時だ。共謀している委員会は3つあるが、誰が何をしたのか相互に知っていたら、誰かひとりが捕まっただけでそこから情報を根こそぎ一本釣りされる恐れがある。
――その手腕があるかどうか、まさに今試されているわけだけど……自分ならそうなった場合に備えて、詳しいことはお互い知らせずにいようと決める。もし五年生もそう考えていたなら、鳥の子玉代やつづら代の話を出しても雷蔵には響かなそうだ。
「生物委員会は予算が浮くどころか足らなかったのを、非常手段で補填していましたが」
攻め口を少し変えてみる。
ドリルをめくる雷蔵の手が止まった。鼠相撲(に言い換えたゼロヨンラットレース)の話を、予算不足なら自分たちで稼ぎ出すのが正しいやり方だったのだという懺悔とともに、三木ヱ門にこぼしたのは雷蔵だ。
「だからでしょうか。委員長代理の五年生なのに、竹谷先輩は裏予算案のことをご存知なかった」
計画に乗る以前の話で右往左往しているのを見ていたから五年生は敢えて八左ヱ門を仲間に加えず、裏予算案について口を拭っていたのだろうと、言外に匂わせる。
表沙汰にできない話なら、知っている人間はなるべく少ないほうが好ましい。
「……私の番か」
少し眉間にしわを寄せて、雷蔵は首を傾けた。