盤上に駒を置くように、指を伸ばしてトンと豪快な文字のひとつを叩く。
「買いたい品物の相場が予想外に下がっていたりして予算を使い残すと、翌月の予算申請を少なめに修正させられる。多くはない予算をやりくりして倹約しても、どうにか浮かせた分が過剰金として翌月分の予算から引かれる」
余りが出たということは当月の予算は必要以上に多かった、と判断されるためだ。支出を抑えようと頑張れば頑張るほど支給される予算が減っていっては努力のし甲斐もない。それでいて予算を申請するたびに会計委員会には苦い顔をされるのだから、気の滅入る話だ。
淡々と話す雷蔵に、むう、と団蔵が口を尖らせた。
「だって生徒の分として学校から貰える予算自体が多くないんだもの」
「うん。それは承知している」
そのことでさっき君の先輩にも説教を貰ったよと、雷蔵が目を動かして三木ヱ門を見る。決まり悪くなった三木ヱ門が鼻先をこする振りをして視線を逸らすと、雷蔵は「そう言えば今回は泣いていないね」と独り言のように言い足し、それを聞いた団蔵が目を丸くして三木ヱ門に軽く睨まれる。
そのやり取りを目の端に引っ掛けるような様子で、雷蔵は話を続ける。
「まあ、予算が浮くと言っても微々たるものなんだけど――塵も積もれば山となると言うだろう。少しづつ予算を減らされていくくらいなら、ごく少額の余剰金は他の支出に付けたことにして、つづらの底に放り込んで隠してしまおうって、良からぬ考えも沸いてくる」
「つづら、ですか」
三木ヱ門が思わず前のめりになると、雷蔵は立てた人差し指で自分の口を押さえて幾分身を引いた。
四手目だ。
――どこに打てばいいんだ?