ここからの話を聞き逃すまいと、すべての注意を雷蔵に集中する。
そして沈黙が落ちた。
外の廊下を誰かが向こうから来て、教室の前を通り過ぎ、遠ざかって行く微かな床鳴りが無音の教室にきしきしと響いて消える。
「あの、他にも何かありませんか」
間が持たなくなった三木ヱ門が催促する。雷蔵は口をつぐんだまま筆を摘み上げ、指先で無造作にくるくると回転させた。
呆気にとられる会計委員を前に、無意味な手遊びを続けながら平板に言う。
「私はもう駒を動かしたよ」
後手を打たないと次の手は出さない――三木ヱ門が知っていることも話せと言うわけだ。
まさか生物委員会のように、裏予算案を知ったからには首を懸けろという話にはならないだろうが、今の雷蔵の態度はやや不穏な感じがする。無理矢理連れて来たのだからそれが当然と言えば当然だが、団蔵の質問攻めにあっていた時の様子は、いつも通りの親しみやすい先輩だったのに。
三木ヱ門が考え込んでいるうちに筆を置いた雷蔵は、腕を交差して机に肘を突き、書き取りドリルを眺め始める。
「予算を使い切った図書が乗りそこねたのなら、火薬と学級委員長は報告書上では収支が揃っているけれど、実は残金があると言うことですね。――適当な名目をつけて、使ったことにして余らせた予算が」
そこまで言って三木ヱ門は言葉を切る。雷蔵が下に向けていた目を少し上げる。
「お次、どうぞ」
促すと、雷蔵はわずかに口許を曲げた。