空気を詰め込んだ袋が針の一突きで弾け散るように、落ち着きなくぐらぐらと動き続けていた雷蔵の頭がぴたりと止まる。
胡乱な目が三木ヱ門を見た。
「……こんな他愛ない質問にも真剣に悩んでくださるくらいですから、ましてそれが重要事項となれば、逡巡はいかばかりかと」
火薬委員会と学級委員長委員会は計画を実行に移したが、秘密を守るために共謀するもの同士で協調しなければならないにも関わらず、雷蔵が言い出せずにいる間に図書委員会の予算は想定外の買い物に費やされてしまった。
提出した収支報告書通り、支給された当月予算と当月支出は、一文の過不足なく一致した。
「"五年生の予算のことで質問がある"と申し上げた私が、中在家先輩の前で話を続けようとしたのを、強い口調でお止めになりましたね」
立ち話で用が済む程度の"学級費"のことを他の学年の前で口にするのは、そんなに不都合とは思われません。
表情を崩さずぺらりと言う三木ヱ門に、雷蔵は困ったような睨むような中途半端な顔をした。
「私に後ろめたさがあるばかりに、君が話そうとしているのが"学級費"のことではないと先走って、中在家先輩の耳に火薬や学級委員長の話が入るのは拙いと慌てたのを見て、確信したわけだ」
「はい」
「……んー」
片手を上げて額を抑え、雷蔵が呻く。
「私はいずれこの癖のせいで命を落とす羽目になるかも分からないな」
「学生のうちに矯正すれば良いことです。団蔵の字みたいに」
同じ書き順で書かれたとおぼしい「右」と「左」と「有」の上に指を置いて三木ヱ門が言うと、雷蔵はひどく苦そうな苦笑いをした。
「確かに、裏予算案はある。そして図書は乗りそこねた」
ぽつんと言ったその一言に、三木ヱ門と団蔵は居住まいを正した。