「見透かしたようなことを――」
「こう申し上げるのは失礼ですが」
少し苦い顔になって言いかける雷蔵を遮り、声を強くする。
「不破先輩に重度の悩み癖があるのは周知の事実です」
「それは否定できない。けど、それが五年生の画策とやらと」
「書き取りドリルと作文の練習はどちらから取り掛かったほうがいいですか?」
出し抜けに机上のドリルと筆を指して団蔵が口を挟んだ。
二度続けて話しだしたところを遮られた雷蔵は、それを不快そうにする様子はないものの、「え?」と戸惑ったように団蔵を見た。動いた拍子に雷蔵の手に弾かれた筆が転がり、三木ヱ門は黙ってそれを拾う。
身を乗り出した団蔵が更に言い募る。
「"枕"はさっき伺ったけど、それじゃ"源氏"はどの段が読みやすいですか」
「え、え? ――えと、桐壷……じゃなくて、若紫?」
「使い古した手拭いを雑巾に回す頃合いはいつですか」
「ええ? 雑巾? 手拭いの生地が薄くなったら――いや、端っこが綻んできたら……穴が開いてから、だと、遅いかな……」
「人と話すのと本を読むのと、ゴイサギを増やすにはどっちがいいですか?」
「さ、サギの繁殖? それは私には分からない――生物委員に聞くとか、ああでも、図書室に鳥の図鑑があったっけ……」
この状況とは無関係な質問を畳みかけられた雷蔵が、それを咎めるどころか律儀に答えようとしてあたふたする。選択肢と目的がおかしなことになっている質問にさえ真剣に悩んでいる。
――狙ったんじゃなくて語彙とゴイサギがまだ団蔵の頭の中で一緒くたなせいだろうけど。
ひとしきり雷蔵の周章狼狽を観察した三木ヱ門は、ポンと音を立てて手を叩いた。