「大丈夫ですか?」
傾いた雷蔵を見上げて団蔵が気遣わしげに言う。
「ちょっと頭が追いつかないんだが……ええと、」
大丈夫ありがとう、と言って体勢を立て直した雷蔵が、きちんと座って生真面目な表情をしている三木ヱ門と机越しに正対して手を組み直す。
「除外するということは、図書委員会は予算を申請通りに使っていたと認めるってこと?」
「その通りです」
「なら、私がここで問い詰められる理由は無いんじゃないか?」
「……五年生が画策している裏予算案――と仮称しておきます――を図書委員長に提案するかしないか迷っている間に、降って湧いた"雀躍集"の買い取りに予算をすべて食われてしまった為に、結果として図書委員会は"現状、裏予算案に乗っていない"のではありませんか」
「は」
雷蔵が気の抜けた声を出した。
と言うより、交差した指が一瞬跳ねたのと同時に掠れた息が漏れた。丸い目を瞠って少し身体を引き、団蔵がまた肘を掴む。
「なんでそう思う」
「六年生がいない火薬と学級委員長委員会は、委員長代理の五年生がトップです。久々知先輩と鉢屋先輩がご自身で委員会を差配できるけれど、図書委員会には中在家先輩がおられる」
委員会の為になるとは言え他の生徒に対して不公正になる計画を実行しようとする場合、委員長の同意なしに独断専行しては、後に事情を知った長次がどんな反応をするか予測がつかない。
しかし正道に背く行いをすれば、確実に怒りを買うことだけは分かる。
しかししかし、計画の内訳を懸命に説けば納得して貰える可能性が無いわけでもない。
しかししかししかし、そんな舌先八寸で委員長を丸め込むような真似をしてもいいんだろうか。
「……という葛藤を不破先輩がなさったと、推測しました」