まだ庄左ヱ門と伊助が雑巾を縫っているかと覗いてみた一年は組の教室が無人になっていたので、そこで懇談会を開くことにして室内へ滑り込んだ。
窓際最後列の長机を選び、壁と窓で背後と左側を阻まれる席に雷蔵を引き据え、その右側には団蔵が並んで座って、三木ヱ門は机を挟んだ向かい側に座を占める。机の上には団蔵が懐に入れっぱなしにしていた書き取りドリルや筆を並べ、一見では和やかな勉強会に見えるように偽装する。
「戸に心張り棒をかっておきます?」
「いや、そこまでしたらかえって怪しい。戸を閉めておくだけでいい」
「物々しいなあ」
三木ヱ門と団蔵のやり取りを壁に寄りかかってぼんやり眺めていた雷蔵が、裁きを受ける咎人みたいだとぼやく。そして、確かに何も憚ることはないとは言えないけど――と、床に向かってこぼした。
「先輩、お願いですから体育座りはおやめ下さい」
自分より背の高い人が体を縮めてしおれているのを取り囲んで糾弾するのは、さすがに寝覚めが悪い。三木ヱ門が頼むと雷蔵はのろのろと膝を倒し、緩く組んだ手を机の上に置いた。
その手の下で、帳面から飛び出しそうに躍動的な「正」の字がくしゃりと撚れた。
「お尋ねしたいことは大別してふたつあります」
「――うん」
「が、ひとつは置きます」
雷蔵を引っ立てるのと図書委員会とは関係ない、と長次に言ったことに義理立てするわけではないが、こちらの解決には会計委員長にも噛んで貰ったほうが良さそうな気がする。
「五年生は――と言うか、五年生の所属する火薬・学級委員長・図書の各委員会は、支給された予算を収支報告書通りに運用していませんね」
「……これはこれは。言い切ったね」
姿勢を正してはっきりと告げた三木ヱ門に雷蔵が薄い笑みで応える。その表情は少し三郎に似ていた。
「はい。しかし、図書委員会は除外できるとも、今は確信できます」
続けて言った三木ヱ門の言葉に雷蔵が身動ぎ、団蔵がさっと肘を押さえた。