この籠を図書室に置いてくるから少し待ってほしいと悄然とする雷蔵と、頭を重石で押さえられてまごまごする団蔵を、長次は黙って見比べている。
変だと思っている……よな、これは。けど、会計委員会は図書委員会に不審を持っているのではないと、わざと空けた間で汲んでくださったはず。
高いところにある横顔をこっそり伺い、三木ヱ門は緊張しきって逆に鼓動が間遠になりそうな胸をそっと撫でる。お願いだからもう少し表情筋を使ってほしい。
「申し訳ありません。抜けます」
長次に顔を向けた雷蔵が軽く頭を下げ、ついでに眉も下げた。長次がつと顎を引く。
「構わない。当番ではないのに手伝わせた。しかし、良いのか」
意に反して連れて行かれるようだが――と言いたげな視線が、じろりと三木ヱ門を見る。
ぴょんと三木ヱ門の背中が伸びた。雷蔵がゆっくりした口調で言う。
「五年の学級費のことならば、学級委員長には尋ねにくいでしょうから」
「そうか。なら、良い」
頷いた長次は肩先を軽くぶつけて器用に引き戸を開けると、そのまま図書室の中へ入って行った。
……他人のしていることに興味が無い、というのは本当らしい。
「これを中に置いてくればいいんですよね」
「え、ああ」
腕を伸ばした団蔵が頭の上の重そうな籠をひょいと取り上げ、空になった雷蔵の手が一瞬泳ぐ。雷蔵が何を言う暇もなく団蔵はその籠を持って長次の後に続き、すぐに廊下へ戻って来た。
「掴んでいなくても、逃げないよ」
また飛びつこうとして身構える団蔵を片手を上げて制し、雷蔵は三木ヱ門に困り笑いのような苦笑を向けた。
「……さて、何を話そうか?」