こいつはちょろいと見くびられるよりはマシな扱いかもしれないが、褒めたら怯えられ小突いたら安心されるというのも複雑だ。
そう考えつつ少しだけ開けていた戸を閉じると、団蔵がきょとんとした。
「入らないんですか?」
「中在家先輩も不破先輩もご不在のようだ。困ったな」
「……中に入って探さないんですね。あんまり困ってなさそう」
「いや、大いに困っているぞ」
中在家先輩に不破先輩の居所を尋ねられないとなると、事務室か焔硝蔵を見て回らなければなあ。当てもない手がかりを頼りにあちこち無為に歩き回ってばかりで、ああ疲れる。
そう嘆いてみせる三木ヱ門を疑わしげな目で眺めていた団蔵が、さっき閉じたばかりの戸に手を掛けた。
「おい、何を」
「ついでだから"枕"を借りようかなって思って」
僕は本を読みますと、慌てる三木ヱ門に向かって堂々と宣言する。
「でも、枕なら備品倉庫なのかな」
「その"枕"じゃない」
「枕草子なら書庫に分冊版がある。拾い読みに、良い」
突然背後から聞こえた一本調子なぼそぼそ声に、三木ヱ門はヒュッと息を呑んだ。向かい合う三木ヱ門の肩越しに後ろを見た団蔵が「あ」と口を開ける。
「五十段前後に馬の話があるよ。好きな題材なら、読みやすいんじゃないか?」
穏やかに補足する声が聞こえた瞬間、固まっていた三木ヱ門は矢のように鋭く振り返った。
腕いっぱいに本を抱えた長次が真後ろに立っている。振り向いた三木ヱ門の勢いにいささか面食らった様子だ。その更に後ろから巻物を盛り上げた籠を抱えた雷蔵がひょいと顔を出し――そして固まった。
「……確保っ」
三木ヱ門が言うのと同時に、ダッシュで駆け寄った団蔵が雷蔵の無防備な腰に飛びついた。