その反故紙はどう頑張っても深い意味を見出だせないただの落書き――「ひるねするねこ(習作)」とか、暇つぶしのマルバツゲームの跡地とか――であると委員長が認めたら、持ち出すのはずっと容易になる、ということにもなる。格子の中にマルとバツが並んでいるのを見て戦陣図の類だと思い込むようなうっかり者の手に渡る可能性もあるが、情報撹乱の一環ととらえればそう神経質になる程でもない――か?
「都合良く考え過ぎ、かな」
くるりと瞳を回して三木ヱ門が呟く。
なんてことない紙切れ一枚の扱いさえ気を使うのに、事務室で出た書類の書き損じなんて部外秘情報のかたまりだ。学園の外に出しても問題がないものなんてそうあるわけがないし、根気よく選り分けてたまたま一枚や二枚見つけるくらいでは、労働量が古紙を売った収入をはるかに上回るに違いない。徒労もいいところだ。
それでは、どうして雷蔵は「たくさんの反故紙」に反応したのだろう?
「紙買おう当人がどんなに信用できる相手でも、それを卸す先にその保証はないし……でも、漉き紙づくりまで自分でやる人なら、反古紙の内容が他人の目に触れる機会はない……それでも、万が一を考えたら書き付け一枚たりとも外部へ渡すのは避けるべきだし……」
「先輩、先輩、せんぱい」
ぶつぶつ呟きながら歩く三木ヱ門の袖を、団蔵がつんと引っ張った。