イナズマって言うかイカズチですねと混ぜ返し、何かを思い出したようにひょいと後ろを見て、遠くへ目を凝らす顔をした。
「どうした」
「ころっと忘れてました。虎若が誰かから水飴を貰って来て、その"誰か"が善法寺先輩かもしれないってこと、潮江先輩に話しておくべきだったなぁ」
「左吉が言うんじゃないか? ついでに、本当に水飴なのかどうかも」
薬種にもなるし値も張る水飴を生物委員会の一年生にくれたのは伊作ではないか、と推理したのは左吉だ。左吉はそれを生物・保健の共同謀議の口止め料かご褒美と考え、三木ヱ門は体力増強剤である蜜漬けを偽装して保管、あるいは隠匿しているものと考えた。
下級生長屋の生き物たちの常軌を逸した活動ぶりからしてどこかで蜜漬けを舐める機会があったのは確実で、虎若が貰って来て早々に部屋にぶちまけたものがそれだったに違いない。――と思ってはいるが、「違いない」と予測していたことが外れたばかりだ。ここはひとつ慎重にならねばなるまい。
「と言うかいい加減に部屋を掃除しろ、お前らは」
「えへへへへへへへ」
「全くもう。信じがたく大雑把だな」
「おーざっぱなのは不破先輩もですよー」
「……じゃあ仮にお前と不破先輩が同類だとして、反故紙が大量にあると聞いたら、お前ならそれで何をしようと思う?」
「今なら字の練習をします」
「そうか頑張れ。それでも使い切れないくらいあったら?」
「落とし紙にするか、漉き返して再利用するか、紙買おうに売る……かなあ」
そういう方面はきり丸がいろいろ伝手を持っているから、となんでもないことのように団蔵が言う。
信用できるのは誰か、最高値で買い取ってくれるのは誰か、いつどこに買い回りに来るか、そういうのを色々な業種ごとに全部把握してるんです。