医務室にいい鼻の薬が入ったと聞いたからあちこちで宣伝していたところだ、何しろこんな気候だから薬が必要な人は多い、と重ねて左吉が真面目な顔で言うと、伊作はそれこそカメレオンのように赤くなったり青くなったりして、最終的に白くなった。
覚悟を決めたのか単に魂が抜けかけたのか、そこからは無抵抗で文次郎に引きずられるままに医務室へ連れて行かれた。
その様子から、文次郎は"鼻薬"の噂が流れたことは伊作にとって打撃であり、団蔵と左吉がそれを狙って敢えて触れ回っていたことを見抜いた。
「それで"緑のこだま"、か」
「はい。風の術を仕掛けたことはひとつも話していないのに、全部把握されてました。"鼻薬"の内容も――」
伊作を医務室に放り込んで一度外へ出ると、文次郎は鼻を捻って険しい表情をした。
留三郎に貼られていた薬はひどいにおいだ、と。
その独特なにおいはかつて嗅いだことがある高価な薬種を山ほど使う特製膏薬のもので、一、二年生しかいない医務室でそれが使われ、当然においで気付いたはずの伊作が少しもそれを咎めなかった。貴重な薬を下級生の判断だけで使用して気にもとめないほど保健委員会は裕福だったか?
会計委員長はその疑問に自身の中で即答した。
断じて否だ。
「――と言うことは、不正な予算か不正な購入ルートか、あるいはその両方が何者かによって保健委員会に与えられたに違いない、と見当をつけておられました」
「……僕たちの委員長は凄いな」