砂漠にも怪しい手毬唄にも全く思い当たるものがなくてぽかんとした三木ヱ門を見て、団蔵はえーと、えーとと唸りながら何度も首をひねった。
「……組み合ったのは一瞬だけでした」
「それ、重要な所?」
「じゃないかもしれません。……組討みたいに、こう、初撃で潮江先輩が正面から食満先輩の首に腕を引っ掛けて引き倒して。凄かったですよ。身体が床から浮いたと思ったら、背中からばぁん! って。そしたら食満先輩、胸の辺りが痛かったみたいで身動きできなくなっちゃったんですけど、参ったって言わないで唇噛んで脂汗流してて」
「そりゃまあ、言わないだろうな」
「そしたら場外から乱太郎が手拭いを投げ入れました」
乱太郎と、医務室の隅っこでまだ計算と格闘していた左近が両者を引き離して、無理矢理に一旦収束させた。下級生に背中を掴まれたまま二言三言殺気立った言葉をかわした二人はまた手を伸ばしそうになったが、さすがに見過ごせないと今度は伊作が口を挟んで止めた。
「これ以上怪我を増やすな、薬がもったいない、って」
「ふうん」
「それを聞いた潮江先輩が食満先輩を指さして、こいつは熱があるから俺たちが戻るまでに処置しとけって仰って、そのまま僕と左吉を連れて医務室から出て、そのあとはさっきの水練池のヤゴです」
「……ん、待て待て。事の順番はどうなってるんだ?」