右から左の鼓膜へ鋭い針が一瞬で貫通したような音圧がそれでも耳を刺した。
「すっ……ごい音、ですね……」
「離れた馬にも聞こえるように、遠くまで届かせないとならないんで――親方くらいの達人になると、音さえ消えるんですがね」
「超音波?」
近い将来、団蔵が音のない口笛を吹くそぶりをするようになったら警戒した方がいいのだろうか。訓練法を確立出来れば、忍術学園の矢羽音に代わる新しい情報伝達手段に昇華できそうではあるが。
「向こうの草陰が動いたような気がしたけど――他の反応はありませんね」
そもそも馬は草の丈に隠れるような大きさでもなし、鳥か虫かと、きょろきょろと辺りを見回し清八は首を傾げた。
「もうちょい他の場所も探してみます。あ、でも、部外者は立入禁止の場所って多いですよね……どうしよう」
「でしたら、団蔵に声をかけておきます。僕も馬がいたら捕まえて正門に預けておきますから」
「それはありがたい。若旦那の先輩ともあろう方にお手数をお掛けして、あい済みません」
きっかりした動作で低頭する清八に、いや僕はただの四年生だしそこまでして頂かなくてもと気恥ずかしくなった三木ヱ門は、急いで話を逸らした。
「あの、あの、学園の中をあちこち回っていらしたのなら、珍しい猿は見ませんでしたか」
「珍しい猿?」
「あ。――あー!」
言っちゃったぁっ、と頭を抱えたくなった。
赤くなった顔が一瞬で白くなった三木ヱ門の尋常でない様子に清八は目を丸くしたが、言わでものことを口走ってしまったのをそれで察してくれたらしく、自分の口を立てた人差し指でちょんちょんと突くと、よく日焼けした顔でにっこりした。
「さあ、特に変わったものは見ていませんし、巌よりも鉄よりも馬借の口は固いんですよ」