中身が詰まった俵にでも体当りしたような衝撃に思わず体勢を崩すと、肩に伸びてきた手がポンとそれを押し戻した。
「失礼しました。怪我はありませんか」
「……あ、あれ?」
よく通る快活な声に顔を上げると、馬借特急便で飛び込んで来てからだいぶ経っている清八が佇んでいた。学園の中を移動している間にあちこちで配達の頼まれものをしたのか、いびつに膨らんだ円筒形の大きな袋を口を絞って肩に担いでいる。
「こちらこそ申し訳ありません。気が急いていました」
頭を下げる三木ヱ門に、清八は少し慌てたように声を掛けた。
「ああ、止してください。俺がぼんやりしてたんです。探しものが見つからなくて」
「どこかで何か落としたのなら、事務室に届いているかもしれませんが」
「事務室ですか。忍術学園だと、繋いだ馬も落とし物になりますか?」
「うま? ――て、あの、乗ってこられた馬ですか」
「ええ。異界妖号ってんですが」
一通り用事が済んで繋いでいた場所へ戻ってみたら、解けた縄だけ残していなくなっていたと、あまり慌てた様子でもなく言う。
「偶然縄が外れても敷地の外へ出て行くのは考えにくいし、まぁそうなっても自分で村へ帰れるから心配はいらないんですが、放っておくわけにはいきませんので……馬、どこかで見ませんでしたか」
「すみません、見てません。水練池からここまでぐるっと歩いて来たけど、足跡とかそれらしい影も特には」
しょっちゅう行方不明になる蛇やらトカゲと違ってあからさまに存在感のある馬が学園の中をぽこぽこ歩いていたら、すぐ誰かが気が付いて確保するはずだ。確かに焦る必要は無いが、馬を連れていない清八はどこか手持ち無沙汰に見える。
そうですか、と小さく頷いた清八が、すっと三木ヱ門から顔を逸らした。
何だろうと思う間もなく甲高い指笛の音が辺りをつんざき、三木ヱ門は思わず両手で耳を覆った。