「一体、どこで」
「それは重要じゃねえ。焔硝蔵と医務室には回ったが、――」
そこまで言って急に言葉を切ると、文次郎は興味津々に先輩たちを見比べる一年生たちの背中をパシンと叩き、さあ行くぞと声を掛けた。
こだまが何かの比喩だということは分かってもそれが何を指すのかは分からない八左ヱ門も、眉を寄せて口をつぐむ三木ヱ門とそれを見ようとしない文次郎を、交互に窺っている。訝しげな表情は、会計委員の間にそこはかとなく漂う不穏な雰囲気に面食らっているようでもあった。
「とにかく」
肩越しに一瞬八左ヱ門を睨み、文次郎がもう一度口を開く。
「こっちはこっちでやる。田村はそのまま動いてろ」
「しかし」
「なぁに。一人じゃねえんだろ」
三木ヱ門を遮った文次郎の声は、珍しいことに些かの揶揄を含んで軽かったが、ふと辺りの空気が冷えた。それを察し少し顔を曇らせた団蔵と、心配そうな表情になった左吉を小突いて文次郎が促す。
「ぼーっとするな。ほら、歩け歩け」
「……、失礼します」
「失礼します」
居たたまれなくなったのか、団蔵と左吉は歩き出すとすぐに小走りになって池の端から離れて行った。その後を悠揚とついて歩く文次郎は、とうとう一度も振り返らず、やがて木立の向こうに見えなくなった。
「なに今の。変な緊張感……」
大小の影が完全に消えたのを確かめ、かくんと肩の力を抜いて呟いた八左ヱ門が、唐突に立ち上がった。