怒りの形相に変わるのを覚悟して正視した文次郎の顔は、しかし不機嫌の度合いが増した様子はなかった。右手を腰から離して頬を擦り、じっと三木ヱ門を見る。それから八左ヱ門にちらりと目を移し、もう一度三木ヱ門を見た。
「またか」
素っ気ない口調で言い、「ヤゴーってなに」「トンボの幼虫」とこそこそ喋っている一年生たちの襟首を引っ張り上げて、くるりと踵を返した。
「あ、あの、どちらへ」
こちらを向いた背中に三木ヱ門が慌てて声を掛けると、文次郎ではなく団蔵がハイと挙手した。
「あのあと、いっぱい風が吹きました。ので、あちこち回って、風鳴りを聞いてます。だけど思ってたより聞こえません。残念です」
「残念なのはお前の国語力だよ。――でも、僕たちとは別に、潮江先輩がこだまを捕獲したそうなので、これから見に行きます」
溜息をついて首を振った左吉が、目を瞠る三木ヱ門にさり気なく目配せする。まとまりのない台詞にきょとんとして団蔵を眺めている八左ヱ門は、幸い、それを見ていない。
「こだま……、何色です?」
「緑」
おずおずと尋ねる三木ヱ門に、頭巾を使って結んだふくら雀の端をついと引いて、ぶっきらぼうに文次郎が答える。
「風の術」で団蔵と左吉に吹かせた"鼻薬"という音に、反響してはね返って来たこだまの色は緑色。
文次郎は伊作を捕まえたのだ。