突き刺さるような視線から目を逸らし大急ぎで結び直そうとした腰紐が指の間から滑り抜ける。へなへなと逃げる紐を慌ててかき集める自分の手の動きの心許なさに、三木ヱ門は思う以上に狼狽していることを悟った。
「野合の邪魔をしたか」
まだうずくまっている一年生をちらと見て、文次郎がぼそりと言った。
三木ヱ門がやっとつまみ上げた腰紐をまた取り落とし、八左ヱ門が目を剥く。
「とんでもないことをさらっと言わんで下さい!」
「冗談だ」
「先輩の冗談は分かりづらいです」
「そうかよ。すげえ声だな」
「……色々ありまして」
いつもと違う文次郎の風体や首に巻いた変わり結びを気に留める余裕はないらしい。八左ヱ門はそろそろと正座から爪先を立てた跪座に姿勢を変え、いつでも飛び退れるかたちを作りながら、目にも留まらぬ速さで腰紐を結び終えた三木ヱ門をまた横目で窺った。
「で、どういう状況なんだ、これは」
八左ヱ門の視線を追った文次郎は、今度ははっきりと、塑像のようにかしこまっている三木ヱ門に向かって問いかけた。
「あの、……ええと、」
口の中が乾く。
文次郎や一年生たちを猿の一件に巻き込むことはしたくない。しかし、ここで今まで話していた内容をそのまま伝える訳にはいかないが、無難な所だけ掻い摘んだら話すことがなくなってしまう。何を言えばいい、何を言えばこの場がうまく収まるんだと全力で頭を回転させるものの、その遠心力で弾き飛ばされるのか、適切そうな言葉は思い当たる端からぽんぽんと消えて行く。
「……、内緒です」
最悪の中でも最悪の悪手を打つことを十分に自覚しつつ、三木ヱ門は蚊の鳴くような声で呟いた。