緩んだ襟を直しながらどう話を切り出したものか寸の間考えた三木ヱ門は、結局、ものすごく具体的な質問をした。
「裏山で木下先生から受け取って持ち帰った脱走した小猿を小さいつづらに詰めて縄をかけて校舎裏の渡り廊下脇の植え込みの下に隠しましたか?」
「何をどこまで知ってるんだ、お前」
一瞬苦渋に満ちた色を浮かべた八左ヱ門は、すぐに諦め顔で頷いた。
「隠したよ。猿が逃げたと報告するために大急ぎで木下先生を追い掛けてみれば、その木下先生から猿を渡されて驚いたの何のって」
「その猿がまた逃げました――逃げたようです」
「でぇっ!?」
今度は八左ヱ門が声を裏返らせた。心なしか、乱れ放題の髪さえ逆立ったように見えた。
「なにそれどういうこと。そこらを歩いてる猿を見たのか?」
「いえ。不破先輩が渡り廊下で拾って来られた、穴の空いた小つづらを見ました」
「……雷蔵に、」
「言ってません言ってません。くしゃみが出たから喋ってません」
予算の話に動揺を見せる雷蔵を揺さぶろうとして、どこまで手の内を見せようか計っているうちに三木ヱ門が大きなくしゃみをして何となくうやむやになったのだが、そんなことは知らない八左ヱ門はその言葉を聞いて変な顔をした。
「喋ってないなら、いいけど。……しかし、穴が開いた小さいつづらひとつからそこまで推理したのか。田村ってやっぱり頭いいんだな」
「……真顔でおっしゃらないで下さい」
滝夜叉丸と張り合って自画自賛するのはお手の物ながら、他人から真っ直ぐに褒められる事は、四年生にもなると実はあまり無い。しかも「やっぱり」と来たものだから、三木ヱ門は柄にもなく頬が熱くなるのを感じた。とっくに正した襟をきつく掻き合せ、それだけでは手持ち無沙汰で、腰紐まで一度解いて上衣の裾をきちきちと押し込み直す。
「今度は学園の外に出てはいないでしょうが、それでも猿が人目につくのは良くないのでしょう? 早く再捜索を――」
三木ヱ門が早口に言いかけた時、二人の横手にあった灌木がガサガサと音を立てた。