もともと伊作にはねずみ用の体力増強剤の調合を頼むだけだったはずが、それに必要な滅多に手に入らない薬草をすぐに都合して来たことから何か大きい力が背後にあることを悟られ、珍かな薬種を調達できる可能性に浮き立った伊作は強硬な警告も意に介さず強引に秘密の輪に加わってきた――
まとめるとそういうことのようだ。
三木ヱ門は頭がクラクラしてきた。そりゃまあ確かに、平穏無事に小猿が元の国へ帰ってしまえば、首を懸けろの覚悟を決めろのと眦を決していたことは後々笑い話にもなろう。あとに残るのは多様な薬種を扱う貿易商との繋がりだけだ。
しかし小猿を預っているのは生物委員会だ。
重ねて言うが、生物委員会だ。
菜箸に長手袋に覆面の完全防備で草深い地べたを這いまわっていたり、頑丈な捕虫網を担いで駆け回っていたり、鬱蒼とした木立の奥へ向かって指笛を吹き鳴らしていたりする姿がしばしば目に付く生物委員会だ。
何かの拍子に猿が逃げたきりになって、その話が大元のお偉方まで届いて――という危険性を、よくもてんから無視できたものだ。
「今日の放課後、一度医務室に行きました。……下級生たちが、薬の在庫は万端だって張り切っていましたよ」
「……あー。ちっさいのが喜んでるならいいやもうそれで」
「善法寺先輩は、さすがに他言はしていないようですね」
「その辺りは冗談無しに真剣に釘を刺したからな。ひいては保健委員会の為とはいえ、個人的な好奇心で下級生を振り回して構わんと思うほど、視野は狭くないんだろう。行き掛けの駄賃で猿の検診もしてもらったし」
御典医だ。
伊作がその役目を負っていると推測はしていたが、まさかそれが副次的なものとは思わなかった。
「ところで、そろそろ襟を離していただけませんか……あ」
「あ?」
ほとほとと甲を叩かれてやっと襟を掴みっぱなしだったのを思い出し、慌てて両手を引いた八左ヱ門は、微かに裏返った声を出した三木ヱ門を不安そうに見た。