それを聞いて心得顔で頷く三木ヱ門に、八左ヱ門が小さくため息を吐いた。
「他言無用だって孫兵にもっと強く言っておくんだった」
「猿が学園の外へ出てしまったと聞いて、学園長先生や生物委員たちが打ち首になるかもしれないと随分うろたえていたので……」
そして三木ヱ門はその動揺に付け込んで喋らせた。
深入りするのはやめておけばよかったとほんの少し後悔しつつ、乱太郎から逃げ回るのに精一杯で孫兵の告白を聞かなかった留三郎は結局のところ運が良かったのかと、釈然としない気分になった。学園長の命さえ左右するほどの預かり物なら、事情を公にして全校あげて捜索するべきだと孫兵に説いたのは、留三郎が先だ。
「その辺りは斟酌してやって頂けると、私の後生がいいです」
今度は三木ヱ門がやや目を逸らして言うと、八左ヱ門は孫兵が口を割るに至った状況を何となく察したようで、渋柿を囓ったような顔になった。渋柿が生る木からもいだ柿だからきっと不味いだろうなと思いながらひと噛りしたら案の定、とばかりに口元をしわしわと歪ませる。
「ふたつ目です。五年生の先輩方は本当に、お歳暮の猿のことはご存知ないのですか」
「知らない筈だ」
素早く八左ヱ門が答えた。
「予算を賭けて用具と勝負したのは、隠していてもいつかバレると思ったからそれとなく喋った」
同級生は六年生をうまく引っ掛けたその顛末を面白がりつつ、当然、勝負の理由を尋ねたので、"渡り鳥の餌代が必要になったから"と煙幕を張った。
その煙の臭さに気付かないほど五年生たちは鈍くない。誰も強いて突っ込んでは来なかった。
「……まあ、三郎はちょっと怪しかったけど」
案の定だ。