それはそれとしても、会計委員長が眉を吊り上げること必至の怪しい収支報告書は、確かに存在する。
生物委員長代理は無謀にも渡り鳥の餌代で押し通すつもりだと孫兵は憂慮していたが、どう考えても胡散臭い理由をあえて頑なに主張すれば、どうも話しにくい事情があるようだと文次郎に察せさせることはできる。
「でも、察しはしても、使途不明な予算に潮江先輩が目をつぶることは有り得ません」
「……無いかな」
「無いですよ」
両襟を取った者と取られた者が膝を突き合わせて座り込む、はたから見ればおかしな姿で、二人揃って沈黙した。
猿の一件を伏せたままで、文次郎を納得させる理由をでっち上げられるだろうか。
三木ヱ門としても、仰ぎ見ても見えないほど高いところから降って来た蜘蛛糸の網に、文次郎まで絡め取られるのは本意ではない。
しかし会計委員として、不透明な予算の流れは明らかにしなければならない。手抜きだらけの調査なんてしようものなら、怒り狂った委員長が何を言い出すか想像もできないし、したくもない。
「手を組むしかない……、んですか、結局」
生物委員会と三木ヱ門が口裏を合わせて収支報告書の不自然な点を取り繕うのが、八方が平穏に済む唯一の方法であるならば。でも、それでも、
「……委員長を騙すのは嫌だなあ」
三木ヱ門が呟くと、八左ヱ門は眉を下げて済まなそうな顔をしたが、何も言わなかった。