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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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考え違いをしてる、と洞のような目で八左ヱ門が言った一言が、手繰り寄せた記憶に引っ掛かった。
渡り廊下で穴の空いたつづらを拾った、という雷蔵に会った時だ。
いつもより多額の予算がどうしても必要だった生物委員会が狡い手を使って用具委員会の予算を横取りしたことを、雷蔵は知っていた。そして、顔を合わせるたびにくしゃみをしている三木ヱ門に、「医務室で鼻の薬を貰って来たら」と心配そうに提案した。よく効く鼻薬があるって乱太郎が言っていたよ。
しかし、保健委員たちがそうと知らずに言うところの"鼻の薬"は本物の薬ではなく、用具委員との「鼠相撲」勝負の不正に加担し、秘密の小猿に関わった見返りとして生物委員会から保健委員長へ渡った賄賂――という言い方がきつければ便宜供与――の事だ。
それを雷蔵は知らなかった。
八左ヱ門と兵助、三郎がてんでに何かから逃げ回っている。一体五年生に何があったのかと三木ヱ門が鎌をかけた時から、そう言えば雷蔵は落ち着きを取り戻したのではなかったか。
「こんな話、あちこちに広める訳がない」
襟を掴む八左ヱ門の手に力がこもる。そこもやっぱり土にまみれた手の甲に、骨と腱が白っぽく浮かび上がる。
訝しむ表情をつくった三木ヱ門が無言で八左ヱ門の顔を見つめると、八左ヱ門の白目の中で瞳がぐらぐらと揺れた。
「予算がいるからって用具と勝負した事以外、俺は五年に何も話してない」
この一件を知ってしまえば命懸けの理不尽な責任を背負わせることになるから、だからあいつらを関わらせたくなかったのに!
まるで血を吐くように八左ヱ門が嗄れた声を振り絞る。
ねじり上げた襟の下で細かく震える拳をそおっと押さえ、三木ヱ門はぽつりと言った。
「私もです」
不安定に揺れていた八左ヱ門の黒目が止まる。
「話していません。私も、誰にも」
三木ヱ門が「五年生は"みな揃って"何から逃げているのか」と言った瞬間、雷蔵は自分と三木ヱ門は違う話をしていると気が付いた。
雷蔵が兵助と三郎と共に企んでいるはかりごとに、八左ヱ門は加わっていなかった。なのに、三木ヱ門がそれを一括りにして突き付けてきたからだ。
鎌は大外れだったのだ。


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