「え? だって、新しい火薬とかつづら代とか――図書は何なんだか――、わ、わわ」
「何のことだ」
考え考えぽつぽつと話す三木ヱ門に焦れて、八左ヱ門がまた三木ヱ門を強く揺する。手加減なくあやされる首が据わらない赤ん坊のようになりながら、三木ヱ門はなんとか言葉を続けた。
「医務室に、たくさん、薬が」
「それは承知してる」
「その、伝手で……火薬も、買った、かと」
「薬種商が火薬? 塩硝のことか?」
「そんなの、知りません」
「話が分からん。何を言っている」
「私だって分からな、――いっ!」
がくっと頭が大きく振れた拍子に、勢い余って八左ヱ門の鼻に三木ヱ門の額が激突した。声にならない呻き声を上げた八左ヱ門は三木ヱ門から手を離して鼻を押さえ、見る間に目に涙をためてその場にうずくまる。
「あいたー……大丈夫ですか?」
八左ヱ門にめったやたら振り回されたせいで、自分でしようと思って頭突きしたのではない。謝る必要はないような気もしたが、涙目で俯く上級生を前に対応に困り、とりあえず「申し訳ありません」ともそもそ口にした。
「……平気。痛いだけ」
謝罪を押し返すように片手を上げた八左ヱ門が、鼻を覆ったまま同じようにもごもごと呟いた。覗き込む三木ヱ門を目だけ動かして見上げ、大丈夫だと示すように少しだけ目元を緩ませる。
釣られて三木ヱ門も微笑みそうになった次の瞬間、八左ヱ門は再び険しい表情に戻った。膝に手を付いて中腰になっていた三木ヱ門の襟をぐいと掴み、同じ目の高さまで強引に屈ませる。
「五年と何を話した」
「……"鼻薬"をあちこちに撒いたのは生物委員会でしょう?」
赤くなった鼻っ柱を間近に見ながら、三木ヱ門は慎重に言葉を選んで言った。