「話したのか」
嗄れた喉のせいだけではない毛羽立った声で言って、一歩、三木ヱ門に詰め寄った。
「五年の誰かと、その話をしたのか」
「はい?」
間の抜けた声を出した三木ヱ門が身をかわす暇もなく、八左ヱ門は両手でがっちりと三木ヱ門の肩を掴んだ。大願を掛けた御神籤箱か何かのように、三木ヱ門の首ががくがくと危なっかしく揺れるのも構わずに振り回す。
「どうなんだ。喋ったのか。どこまで。いつだ。誰にだ。おい、黙ってないで何とか言え」
「わ、ひ、」
そう言われてもこの有様では口を開けた瞬間に舌を噛む。喋れないから離してほしいと八左ヱ門の腕を軽く叩いてみるが、見た目以上に動転しているのか、気付いてくれない。
頭の外へぼろぼろこぼれ落ちそうになる記憶を片っ端から拾い集めながら、三木ヱ門は懸命に考えた。放課後になってからこっち主だった五年生とはことごとく顔を合わせているけれど、誰かと猿の話はしたっけ? 順を追って思い出したいのに、こうもブン回されていては、記憶がもつれてうまくたぐれない。大体、何をこんなに焦っているんだろう。
「ご、ご」
「午後?」
漏れた声の断片をかろうじて聞きとめたらしい八左ヱ門が、ようやく少し手を緩める。
「五年生には周知の事実なのでしょうに。何を今更」
くらくらと目眩がする頭を両手で挟んで押さえつつ三木ヱ門があやしい呂律でそう言うと、八左ヱ門は目を見開いた。その拍子に、目尻の辺りで乾いていた泥が剥がれてパラパラと落ちた。
「お前、考え違いをしてる」