「命が惜しければ口外無用と脅しつけるだけでもいいところを、それじゃ悪いから、黙っていれば礼をすると譲歩してるんだぜ。十分優しいじゃないか」
「優しいなら、最初から脅迫なんてしない。卑怯な手を使って他の委員会の予算を横取りしたりもしないでしょう。いくら公にできない事だからといって、無関係な用具に苦労を強いて――」
「強気で結構。で、どうしたい?」
反論しようとする三木ヱ門をあっさりと遮り、八左ヱ門は短く促した。
会計委員の責任を果たして潮江先輩を巻き込むか、田村の胸ひとつに収めて対価を取るか。思い切り口をへの字にして眉を逆立てる三木ヱ門を乾いた目で見遣り、からかうような口調で言う。
ことさら居丈高に振る舞うでもなく、むしろ「なんてな。冗談冗談」と次の瞬間にも口にしそうな雰囲気なのに、相対しているだけで気圧される。錣の他の隠し武器はいくつ持っていたかと頭の隅で確認しながら、三木ヱ門はともすれば空転しかかる意識を全力で巡らせた。
八左ヱ門を捕まえたつもりが、捕まえられた。
猿の身に何かあったら学園長と生物委員会はみんな揃って打ち首かもしれないと、孫兵はひどく動揺した。しかし、きつい言葉で問い詰められたとはいえ迷った末に部外者の三木ヱ門に猿の素性を明かし、それを扱いかねて振り回された大名や貴族の醜聞をも話している。
話を聞いたらその瞬間に一蓮托生決定だが仲の悪い四年生だから構いやしない、三木ヱ門の首もついでに懸けてやれ――という底意が、孫兵にあったとは思えない。偉いことは偉いらしいが顔を見たこともないどこか大名の体面を保ってやることがこんなに面倒臭いとは、思いもしなかったのだろう。
偉い人たちが心配しているのは厄介ものの小猿の身の上ではなく、衆口にのぼる自分たちの評判だ、ということも。
「善法寺先輩や他の五年生の先輩方にも、こんな脅しをしたんですか」
二択に答えかねた三木ヱ門が低い声で恨みがましく言うと、ほどけた糸のようになっていた八左ヱ門の表情が変わった。