瞬きするたびに目の周囲が小さく閃くだけで、八左ヱ門の表情はよく見えない。
当然、愉快そうではない。かと言って、三木ヱ門の予想に反して不快そうな反応もしない。軽く唇を噛んで立ち尽くしている様子は困惑とも違い、何か一心に考えを巡らせているように見える。
賽子は投げてしまった。――けど、早計だったか?
果たして何の目が出るかとやや緊張して見守る三木ヱ門の前で、八左ヱ門がすっと目を上げた。
顔中で笑っていた。
「言わなきゃ知らなかったのに」
「え」
そんなはずは、と棒立ちになった三木ヱ門に声を上げて笑い、八左ヱ門は制服の胸の辺りを引っ張ってごしごしと顔をこする。自棄のように汚れを服に移しているのを呆然と眺めていると、笑っているはずの八左ヱ門の目は凍りついたように固く凝っていることに気が付いた。
三木ヱ門が"孫兵に会った"と「言わなければ」、八左ヱ門は三木ヱ門が"知っている"ことを「知らなかった」のに――知らない振りをしたのに、という意味だと、それを見て察した。
「あのさぁ」
こびりついて乾いた土のせいか白っぽく見える八左ヱ門の口が開き、三木ヱ門は思わずびくりとした。
「何か欲しいものはあるか。高性能の火薬とか、新型火砲とか」
「え?」
「望みの物を用意する伝手がある。只とはいかないが」
言われたことの意味を理解するまで、少し時間がかかった。
理解した途端にカッとした。
「口止めですか」
軽々しく他言するべきではないことは黙っているくらい、何の見返りがなくたってする。個人的な見返りに釣られて、予算に関する不正を見逃すなんてことはしない。
三木ヱ門が語気鋭く言い返すと、八左ヱ門は妙な形に口を歪ませた。
「違うなあ」