続けて喋ろうとして、軽く咳込んだ。嗄れ声で「私には」と言い直す。
「立花先輩のご希望に協力する理由がありません」
「こちらには協力して貰いたい理由がある」
即座に仙蔵が言い返し、是非にも、と楔を打ち込むような語調で付け加える。
八左ヱ門は頑なに首を振り、きっぱりと言った。
「沿いかねます」
「……おおー」
三木ヱ門は思わず嘆息した。自分以外の声も聞こえたような気がしてそっと目を動かしてみると、不興げな仙蔵の後ろで、藤内と兵太夫が口を抑えてしきりに瞬きしていた。
普段は冷静だが怒らせると誰よりも怖い委員長に真っ向からぶつかる生徒の存在は、作法委員にとっても稀有な光景らしい。
下級生たちの感嘆をよそに、喉に湿りを入れて八左ヱ門が続ける。
「作法委員長を務めていらっしゃる先輩と同様、私も委員会で責任を負う立場にあります。先輩に従えばそれを放擲することになる。肯えません」
「大げさな」
まとまった言葉を喋る八左ヱ門の声が途中から掠れてくる。仙蔵は厳しい線を描いていた頬をふっと緩め、ひどく聞き取りにくいその台詞を、言動で一笑に付した。
「二、三の質問があるだけだと言っただろう」
「"答えられぬ"では、済ませてくださらないのでしょう?」
顔色も声音もおかしなことになっている八左ヱ門からは、落ち着いているのか緊張して強張っているのかさえ様子が読み取れない。しかし、左足に鎖を巻いたまま立ち上がった足元は、しっかりと土を踏んでいた。