反射的に立ち止まった三木ヱ門はしかしすぐには振り返らず、少しの間逡巡した。
振り返ってそこにいる誰かと顔を合わせたらまた厄介の種が増える、と頭が思うより先に、足はこの場から駆け出そうとした。唯でさえあっちこっちに転がる面倒を拾い集めてしまっているのに、この上さらに抱え込むのはごめんだと、心の半分が不満の声を上げる。
残りの半分は、いや待て喜八郎が掘ったタコツボに落ちる手合いといえば相場は決まっているのだと、逃げたがる相方を引き止めにかかる。これは新しい手掛かりの到来かもしれないじゃないか。
大きくため息を吐き、肚を決めて、三木ヱ門はそろそろと背後に目を向けた。
「ひとだま……」
それを見て頭に浮かんだ言葉がそのまま口にのぼる。
人魂?
否、人玉だ。貫通したタコツボを通して一直線に落ちかかる、龕灯で照らしたような明かりの中に、少なくとも一対以上はあるように見える手足がもつれ合って転がっている。勿論、手や足だけがただぽとぽとと落ちているのではなく、それが繋がっている胴体や頭もよく見ればちゃんとある――そして、緑と青と深緑が、その隙間を埋めて繋いでいる。
遠巻きに眺めているうちに、三つの色を割って井桁模様もごそごそと這い出して来る。
三木ヱ門は一寸刻みにその球状にこんがらがったかたまりに近付き、そおっと紙縒りを差し伸べた。その火の色に気付いたのか、埃まみれの青い頭巾がゆらりと玉から抜け出て、三木ヱ門の方に苦労して目鼻の付いている側を向ける。
「どちら?」
仄明かりに浮かび上がった顔に向かって三木ヱ門が問いかけると、汚れに汚れたその顔をくしゃくしゃに歪めて、
「……鉢屋」
と「八左ヱ門」は小声で呟いた。