「これ、竹谷先輩の……かな」
焔硝蔵の前でしたように指で足跡の長さを計り、三木ヱ門は首を傾げた。
穴に飛び込んですぐ足元の無数のこぶに気付いたのか、そろそろと爪先立って進んだらしく、掘り返した土に残る足跡は妙に小さくて深い。まるで狐走りをした跡のようだ。
立ち上がり、少し先の地面に目を落としつつゆっくり歩き出す。
「……地面て言葉は、土地の表面だから"地面"なのかな」
どうでもいいことが、ふと気になった。
それなら校舎や倉庫が建つ土地の下にぽっかりとできた、自分が今立っているこの道は、何と呼んだらいいのだろう。地中か、地下か、やっぱり「地下道」だ。
片手に掲げた小さな火が周囲をわずかに照らす他は真っ暗で、穴に高低はなくほぼ直進しているが、まっすぐに見えて緩やかに曲がっているような感覚もある。三木ヱ門は目を閉じ、学園内の見取り図とここまで歩いて来た地下道の伸びる方向を頭の中で重ね合わせた。
下級生長屋の下を抜けて――上級生長屋を通って――今は、倉庫の辺りか?
見当をつけて目を開くと、頼りない紙縒りの火がやけに明るく映って、三木ヱ門は思わず強く瞬きした。
ふらりと火が揺れる。
「え?」
瞬きの勢いで風が巻くほど三木ヱ門の睫毛は長くない。地上でたったいま強い風がひと吹きしたとしても、地中のここまでは届かない。
どこか近くに空気の通り道が、地上へ繋がる穴がある――と辺りを見回した次の瞬間、三木ヱ門はその場を飛び退いた。