これをひとりで掘ったのか。
打竹の火種を紙縒りに移して小さな火を灯し、片手を壁に付けて慎重に歩きながら、三木ヱ門は呆れていた。
もぐらは掻いた土を自分の後ろへ押しやりつつ前進して穴を掘り進めていくと聞いたことがある。小平太もそのやり方を踏襲しているようで、足元のあちこちに小高く土が盛り上がり、暗がりの中に不規則なでこぼこが続いている。
まるで罠だと思った瞬間、踏み崩した土の山につまづいた。
「わぁっ」
ふわっと両足が地面を離れ、こけるなんてカッコ悪いと頑張って体勢を立て直したが、浮いた足をぐっと前へ踏み込んだそこにまた小山があって結局転んだ。
「……なんで転べるんだよ!」
土の上へ投げ出された紙縒りの火が、少し先でちろちろと燃えている。舌を出して笑っているように見えるその火に向かって三木ヱ門は毒づいた。
泥まみれで這い進むのを覚悟していたのに、小平太の堀った穴はむしろ地下道と呼びたいような高さと幅を備えていて、少し屈む必要はあるが三木ヱ門の背丈でも十分に立って歩くことができた。もっと小柄な一年生や二年生なら駆けっこさえできそうだ。
「シールドマシンか、あの人……」
体力増強剤を投与した小平太を城普請や治水工事の現場へ派遣したら、それはもう引っ張りだこに重宝されることだろう。いっそそうやって自前の予算を作ればいいのにと、よく見れば掘りっぱなしではなく軽く叩き固めてさえある壁面に触れて、三木ヱ門はまたつくづくと呆れた。
とにかく進もうと気を取り直し、落ちている紙縒りに手を伸ばして、ふと土の上のくぼみに目がとまる。
足跡だ。
低く屈んで土に顔を近付け、かざした火を透かすようにして先を見ると、長屋の反対側へ向かっていく足跡が一人分、ずっと続いている。