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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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「あれ、何の符丁なんですか」
「内緒」
そんなぁ、と作兵衛が眉を八の字にする。
後輩から思いがけない言葉を浴びた留三郎の意識が一瞬飛んだその隙に、乱太郎と左近はまるで網を打つようにして留三郎に敷布を被せ、医務室の隅に伸べた床(とこ)へ二人がかりで引き込んでしまったのだそうだ。
「是非にも休んでいろと保健委員が言うのだから、そうした方が良いのでしょうけれど」
しょぼしょぼと瞬きして、作兵衛が片手で目をこする。
程度の分からない怪我をしているのだから安静をとるべきなのは確かだが、六年生を追い回しているうちに何だか楽しくなった乱太郎と左近が少々悪乗りした、という理由もあるように三木ヱ門には思える。地引き網漁じゃあるまいし。
「それで食満先輩が医務室に拘束されたから、作兵衛が補修の指揮を執っているのか」
「そんな大層なもんじゃありません。委員長がいつもなさる事をなぞっているだけです」
先に学園へ戻っているように村で言われた時にはしていなかった怪我を、留三郎がいま負っている理由を考えているのか、謙遜して答えながら作兵衛の口元が厳しい線を描いている。
三木ヱ門はそのぎくしゃくと動く顎から目を上げて、作兵衛の目の真ん中を見た。
気圧されたように作兵衛が肩を引く。視線を泳がせても、一年生たちは木くずを集めたり割れた板を短く切ったりするのに夢中で、何やってるんですかぁと横槍を入れに来てはくれない。
「床下を掘り進んで来た七松先輩が廊下をぶち破ったことはお伝えしたのか」
「は、はい」
正面の三木ヱ門に急いで焦点を戻し、作兵衛が頷く。
「廊下は早く直さないと他の生徒に迷惑だから、応急でいいから修理を頼むって」
「穴はそのままか」
「はい。どれだけ掘ったか分からねぇものを埋め戻すのは御免だ、本人にやらせるから放っとけ、と」
「このまま残しておいたら、こっそり長屋を抜け出す時に便利そうだなぁ」
「そんな事をおっしゃるんですか。田村先輩が」
「意外か?」
ひょいと屈んで床下を覗くと、言葉通り穴はまだそこでぽっかりと口を開けている。深さや方向はどうなっているのかと考えながら、三木ヱ門は言った。
「食満先輩はここへ御動座なさらなかったのだな」
「保健委員に監視されていますので」
「そのくらい、六年生が本気で振り切ろうとすれば振り切れるだろう」
しかしそれをしないで、作兵衛に後事を丸投げして敷布の簀巻きに甘んじていることの理由も考えてみるといい。
床下へ潜った三木ヱ門が穴の中へ滑り込む寸前にちらりと見えた作兵衛の顔は、これ以上ないくらいぽかんとしていた。


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