校舎を飛び出し校庭を突っ切って、長屋の裏側から中庭に面した廊下の方へ回り込んで行くその途中に、威勢良く木を挽く音や軽快な槌音、賑やかな話し声が聞こえて来た。
「後ろ通りまーす。失礼しまーす」
長屋の角を曲がった途端目に飛び込んできた光景に思わず立ち止まった三木ヱ門のすぐ背後で元気な声がして、半分に割った太い木の幹を担いだころころした影が追い抜いて行った。
我に返り、かなり重量のありそうな材木を二、三本もひとりで運ぶしんべヱのあとについて歩いて廊下へ近付く。割れた床板の撤去をしていた用具委員たちは三木ヱ門に気が付くと、口々に「こんにちは」と明るい声を上げた。
その中に作兵衛もいる。三木ヱ門の姿を見ても、今度は逃げ出さなかった。
「さすが。仕事が速いな」
「……そのままにしていたら、危ないですから」
「それに、よく気がつく」
穴の前後に衝立を持って来て"通行禁止"の張り紙をしている手回しの良さに目を留め、三木ヱ門が褒めると、作兵衛は鋸を片手に少し恥ずかしそうな顔をして、首をすくめるようにして会釈した。
委員長の姿はない。剥がした床板を片付けたりする作業の手順は作兵衛が指示を出し、一年生三人はそれに従ってこまこまと立ち働いている。
「委員長なら医務室です」
きょろきょろする三木ヱ門の意図を察して作兵衛が言う。その横から、木っ端を袋に集めていた喜三太がぴょこんと顔を出した。
「医務室で"つんむぐって"ます」
「ん?」
「あー、ええと、床(とこ)に突っ込まれてます。絶対安静だって」
「乱太郎と左近にか」
やはり鎮痛膏改・三号に大当たりしてしまったのか。
「いいえ。富松先輩に、です」
「ん?」
首を振った喜三太が目で指し、三木ヱ門が振り向くと、作兵衛は困った顔をしてますます首を縮めた。