「仕方なかった?」
オウム返しに言った三木ヱ門が片方の眉を吊り上げると、雷蔵はしゅんと肩をすぼめた。
「監査の時の潮江先輩に似ている。その表情」
「……」
思わずくるりと頬を撫でる。
策謀を弄した上にそれは仕方なかったとは何たる言いぐさ、と雷蔵は受け取ったのだろう。いかにも文次郎が口にしそうな台詞だが、三木ヱ門の意図は違っている。
生物、保健、火薬、学級委員長の各委員会が「裏予算」とでも言うべき秘密を共謀して隠しているのは先刻承知だが、それに加えて図書委員会まで関わっていたのか。予算の問題は「どの委員会にとっても切実」だから、関わることは「仕方なかった」?
その疑問を顔に出さないよう、三木ヱ門は強いてしかつめらしい表情を作った。
「用具委員会は今月の予算を自分たちで使えません。御存知ですか」
「……うん。あれはやり過ぎだと思ったんだけど、生き物たちのために背に腹は代えられないって……言い訳かな。言い訳だよなあ」
雷蔵がまた追求したくなる言葉を吐く。それを堪えて、委細承知の振りをして重々しく頷いてみせる。
「持ちかけられた賭けに乗ったのは委員長の過失ではありましょうが、その補填のための手間仕事で、食満先輩は保健委員に静養を言い付けられるほどの大怪我をなさいました」
いやなに、本当は大小の傷や打ち身を大量にこしらえながらケロッとしているから乱太郎に叱られたのだが。
その言葉に、雷蔵がびくりと目を見開いた。
「大怪我? 本当に?」
「鎖骨を折ったかもしれません」
あの肌の色の酷さなら折れていてもおかしくないと三木ヱ門には思えるが、痛がりもせず平気で動き回っていたからそこまでの重傷ではない、と思う。しかし骨折ではないと確定はしていないので大げさに言っておく。
「予算が足らないと皆が不満がっているのは百も二百も承知です。が、他の生徒の身体を損ねてまで支給額以上に予算を確保しようと謀を巡らせるのは、会計委員会としては看過できません」
顔色が変わってしまった雷蔵に向かってびしりと言い切る。
指に引っ掛けていたつづらが軽い音を立てて廊下に落ちた。ほどけた腕をのろのろと持ち上げ、雷蔵は額を抑えた。
「そんなことになるとは思っていなかった」