※4/6にアップした記事が非公開設定になっていました。申し訳ありません。(4/7)
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「汗牛充棟」作戦と並行して図書委員会はなにかもうひとつ企てをしていて、その内容は余人の耳目を忍ぶ。雷蔵が渡り廊下へ行った理由もそこにある――
なら、つづらを渡り廊下で拾ったなんて真正直に言わなければいいのに。
「突庵先生の曽お祖父様の自伝は、返却するのですか」
きり丸と久作が数馬を巻き込んで荷車を牽いて吹っ飛んで行きましたと三木ヱ門が言うと、雷蔵はつぐんだ口をむぐむぐさせた。どうしてそれを知っているのかと尋ねかけて呑み込んだらしい。
突庵曽祖父の自伝がどうこうは実際に見聞きしたことから三木ヱ門が自分で推察したのだが、隠し事を知られたと誤解している雷蔵には、今の質問は三木ヱ門が事情に通じていることを仄めかせる圧力になった。組んでいた腕が少し緩み、つづらがぐらぐらと揺れた。
「来るもの来るもの、すべて買い取る訳にはいかないから」
ぽつんと雷蔵が言う。予算は限りがあるし、それでなくとも多くはないし……と、三木ヱ門よりも背が高いのに器用にも上目遣いをする。
「押し付けられた要らぬものなら、反古紙として売ってしまえばよろしいのに」
「……思い切ったことを言うね。ばれたら大変だよ」
無理矢理笑いに紛れさせようとするが、雷蔵の目と眉と口はばらばらに動いてうまくいかない。
「会計委員会だって、予算を大盤振る舞いできるものならしたいです。それができれば、他の委員会に恨まれたり目の敵にされることもなくなりますから。でも、」
"学校"というのは基本的に生産をしない機関だ。学校運営費を投資に回して殖産する遣り手経営者もいるにはいるらしいが、学園長はその分野には手を出していない。生徒が収める学費が予算の源泉になる以上、各委員会の要求を諾々と呑んで予算を増やせば、その分学費も増える。それではお金を用意できずに学園を辞めざるを得なくなる生徒が出て来かねない。
微かに非難する調子を感じ取った三木ヱ門が言い返すと、雷蔵は悲しげに眉を下げた。
「分かっている。けど、予算の問題はどの委員会にとっても切実なんだ」
だから仕方なかったんだ。