今は空手のようですが学園長先生の庵を書物で埋める作戦は完遂したのですかと質問を重ねると、ぶれた焦点がつるりと三木ヱ門の顔の上から滑り落ちて、周囲を大きく一巡りしてからまた鼻の辺りに着地した。
「君はおかしなことを気にするんだな」
軽く言って雷蔵が笑ってみせる。
三木ヱ門に見せるための笑顔だ。心底の笑みではない。表情を変えずに見返す三木ヱ門に、雷蔵はまた忙しない瞬きをした。
「長屋の廊下で久作に聞きましたもので」
「……えっ、喋っちゃったの?」
思わずのように呟いたそばから、雷蔵はひらりと口元を歪めた。その小さな動きが今の言葉は失言だったと証明することに気が付いたのか、つづらに掛けられた縄を指先に引っ掛けて胸高に腕を組み、構えるようにきゅっと顎を引く。眉間には薄くしわまで寄っている。
困っている。
つづらの処遇に悩んでいた時とは違う、もっと深刻そうな困り方だ。
山と抱えていた書物を廊下へぶち撒けた久作が、たまたま行き合わせた三木ヱ門へ得々と喋って聞かせた作戦が、それほど他聞を憚るものだろうか。仮に「汗牛充棟」作戦が図書委員会の秘密だったのなら、久作はそれを吹聴するほど粗忽ではあるまい。
三木ヱ門はふたつの質問をしたつもりでいた。
ひとつ、渡り廊下を通った理由。これは本当に不審に思ったからそう尋ねた。五年生が三人も絡んでいる学園内の怪しい動きに、関連がないとは限らない。
ふたつ、作戦の首尾。こっちはただの好奇心だ。学園長先生は今頃、図書委員長のお説教を食らっていますか。
しかし雷蔵は違う意図に受け取った。
そして誤解したその内容は、三木ヱ門に対して隠したいことであるらしい。
身を守るようにしっかり組まれた腕を見て、三木ヱ門は考えた。