「元の場所へ戻しておけば、そこへ置いた当人が取りに来るんじゃないでしょうか」
「ん?」
ぎくしゃくした口調にならないよう気をつけながら三木ヱ門が提案すると、雷蔵は二、三度素早い瞬きをした。それからふと表情を緩め、つづらを回すのをやめて恭しげに両手で捧げ持った。
「言葉足らずだったな。渡り廊下の端に、きちんと置いてあったんじゃないんだ」
校舎と校舎をつなぐ屋外の渡り廊下はその両側に囲いがなく、代わりにこんもりと茂った背の低い木が並んで植わっている。つづらがあったのは廊下の端も端で、全体の半分以上が植え込みに刺さった状態だったと雷蔵が説明する。
「そこへ放り捨てたか取り落としたふうに見えたから、持ち主が知らないうちにそこへ置き去りになってしまったものと思って、拾って来た」
「……んんー」
上級生の前ながら、三木ヱ門は思わず不審を示して低く唸った。
このつづらに生物委員が小猿を入れていたと決まったわけではない。しかし今の話から、三木ヱ門はつづらが元々は植え込みの下へ隠してあったのではないかと想像した。
何としても外へ出たい小猿は四方を囲む壁に体当たりを繰り返す。その勢いでつづらはじりじりと地面の上を動き、いつしか葉陰から姿を表わす。やがて身体をぶつけるより己の歯を以て噛み破るほうが易しそうだと思い付いた小猿は、足元の薄い竹板に勇んで食いつく。
そして脱走だ。
屋根の上から落ちて来た八左ヱ門は今、どこでどうしているのか分からない。あの剣呑な追手に捕まってしまったら、そうそう簡単に解放されそうにも思えない。「校舎裏の渡り廊下のつづら」と八左ヱ門に謎をかけてみることさえできれば、色々とはかどりそうな予感がする――
「――不破先輩」
「なんだい」
「なぜ渡り廊下に行かれたんですか?」
あまり人通りのない、普段は使うことのない渡り廊下に。
三木ヱ門にひたと見詰められた雷蔵の視線が、にわかに揺れた。