頑丈そうな縄でしっかりと括られたつづらの底には、ちょうど三木ヱ門が片手を広げたくらいの大きさの穴が開いていた。
「変だろう?」
「……ですね」
まじまじとその穴を見詰めた三木ヱ門は、編んだ竹がほつれて飛び出したうちの一本に、指の先でちょんと触れた。
切り口が真っ直ぐではなくギザギザしている。気を付けてよく見ると、穴の周囲は細く割った竹がくちゃくちゃといびつに潰れていて、刃物か何かで切り抜かれたというより、もっとなまくらな何かで押し切られたという様子に見える。
穴あきのつづらが渡り廊下にぽつんと落ちていたというのも奇妙だが、それよりもおかしいのは、
「この穴、内側から開けられているよね」
ちぎれた竹のささくれは全て外側を向いている。二重の十字に掛けられたびくとも動かない縄を軽く引っ張り、雷蔵が不思議そうに言う。
つづらを縄で縛るのは蓋が外れて中身がこぼれるのを防ぐため、ひいては紛失してはいけないものをしっかり保管するためだ。しかし底にこんな穴が開いていてはそもそも物を入れる事ができない。と言うことは、誰かが蓋を閉めて縄を掛けた時には、きちんと中身が入っていたと考えるほうが自然だ。
が、そのまま置いておく間に中身がつづらの底を突き破って脱走してしまった――という話になると、これは余りに不自然だ。
「脱走」
雷蔵が言ったその言葉に、三木ヱ門の頭の中でぱちんと音がした。
「脱走と言えば生物委員会だけどね。つづらの中に生き物は入れまいよ。ああ、でも――」
瞬間、遠くを見る目をした三木ヱ門へわずかに訝しむ視線を投げて、雷蔵はくるりと穴の縁を指でなぞる。おや少し濡れている、と妙な顔をした。
「もしかしたら、素人が触れたら危険な生き物でも入れていたのかな。――だけど、八左ヱ門は生き物をこんな情のない閉じ込め方はしないか……」
いや、たとえ竹谷先輩とて相手によってはそれも已む無しと決断されます。
口走りそうになった言葉を、くしゃみの続きのふりに紛れさせて慌てて噛み潰した。
「中身が飛び出さないように」厳重に縛られた小振りなつづら、内側から破られた穴、転がっていたのはあまり人通りのない、校舎の裏手の渡り廊下。
木下から脱走した小猿を受け取った八左ヱ門は何かの理由ですぐには元の小屋へ戻せず、とりあえずつづらの中へ隠して人目に付かない場所にこっそり置いておいたが、一度自由を知った小猿は勇躍つづらを食い破り、再び脱走した――のでは。
「どうしようね、これ。落とし物でいいのかな」
また面倒なことになったかもしれない予感で固まる三木ヱ門をよそに、くるくるとつづらをもてあそびつつ、困ったように雷蔵が言った。