思わずビクッとして体が揺れ、その弾みで跳ねた肩がガンと板戸にぶつかる。途端に戸の内側の桟に積もっていた埃が舞い上がって、物置部屋に半身を突っ込んでいた三木ヱ門の眼や鼻をつぷつぷと刺した。
「ぶ、べぇ、べ、べぇっぐしっ」
一度は堪えようとしたものの押し寄せるむず痒さにあっさり堰が切れて、最初の一息が飛び出すと後はもう止まらない。大丈夫? と誰かの声が聞こえたような気がしたがそれに答える暇もなく、辛うじて両手で鼻口を覆って、頭を振り立てるようにして立て続けにくしゃみをする。
ややあって、涙で滲んだ目の前にすっと鼻紙が差し出された。
「ずびばぜん」
ぼやけて見えない相手にくしゃみの合間に頭を下げてそれを受け取り、びいっと思い切り鼻をかんでどうにか人心地つく。袖口を引っ張って目元を拭いながら傍らの人影にようやく注意を向けると、そこに立っているのは、苦笑いを浮かべた雷蔵だった。
「君の泣き顔を見るのは今日三回目だ」
そう言う雷蔵は、今回は書物の山を運んではいない。
その代わり――古くも新しくもない、竹を編んだ小振りなつづらをひとつ、体の前に両手で抱えている。
何重にも折り畳んで小さくなった鼻紙で最後にキュッと鼻をこすると、三木ヱ門はしょぼんと肩を落とした。
「みっともないところをお見せしました」
「変な声を出して驚かせちゃったか。ごめんね」
こんな所で何をやっていたのだとは尋ねず、雷蔵も申し訳なさそうに眉を下げた。抱え直したつづらがかさこそと音を立てる。
「そのつづらは何ですか?」
「私のものじゃないんだ。向こうの渡り廊下の端で拾ったんだけど、」
言いながら、雷蔵はくるりとつづらをひっくり返した。