眼の調子が悪かったら目薬もありますよと言って、伏木蔵と怪士丸は"鼻の薬"を取りにぱたぱたと医務室へ走って行った。
利用できるものはなんでも利用するのが忍者だ。
とは言え、純粋な良心を利用するのは、己の良心がとがめる。
「……ごめんなー」
二人が去った方角へ向けて三木ヱ門は軽く手を合わせた。
今頃は勘右衛門も医務室へ足を運んでいるだろう。急に「お客」が増えて、"鼻の薬"の在り処を知らない乱太郎は慌てているかもしれない。……また試薬の犠牲になったかもしれない留三郎は無事だろうか。何につけ行動の早い留三郎が作兵衛にまだ会っていなかったことを考えると、鎮痛膏改・三号の為にどこかで悶絶している可能性が高い。
爆発、骨が痒い、と来て次は何だろう。
想像してブルッとした。
目についた廊下の端の物置部屋に急いで近付き、周囲を見回して人がいないのを確認してから、板戸の引き手に手を掛ける。今度は鍵がかかっている様子はなく、建て付けのあまり良くない重い戸は、ぎりぎりと軋みながら一尺ほど開いた。
中は――埃っぽくて薄暗い。
「あれえ?」
かすむ物置部屋の中へ目を凝らす三木ヱ門の背後で、素っ頓狂な声がした。