お陰で必要な本があれもこれも買えなくて、生徒は困るし委員長はお怒りです。
新月の夜の井戸の底よりなお暗い目をして怪士丸が呟く。
「じゃくやくしゅう、って本の名前?」
伏木蔵が尋ねると、その目のまま怪士丸はこっくりした。
「うん。五十冊も入るから、読んでみて」
「歌集みたいな題名だねえ。久作先輩が落っことした箱の中身も本だったよ」
地面の上に散らばった何冊もの本はすぐにきり丸が拾い集めたが、表紙の色や大きさはどれも同じだったように見えたと、伏木蔵はなかなか観察眼の鋭いところを見せる。
「荷車に積んでた箱も確かほとんど全部同じ作りだったから、あれはみんな本が入ってたんじゃないかなあ。――それに、きり丸があんなに一生懸命に仕事をするんだから、やっぱりあの荷車の荷にはお金が関係してると思います」
三木ヱ門と怪士丸の不景気な顔を見て何となく事情は察したらしい。例えば、注文もしていないのにいきなり現物が届いて、そんなもんいらないのにさあ買い取れ、と送り主に要求されたとか――と推論を述べる。
「まるで送り付け商法だな」
「まるでって言うか、そのものです」
「しかし、そんなに大量に本を送り付けてくるような人が……が、が、が」
「すぺしゃる?」
「文庫?」
唐突に心当たりに突き当たって語尾がぶれた三木ヱ門に、伏木蔵と怪士丸は不思議そうに、さっきと反対側へ首を傾けた。