さっき黒板が落ちて来た窓の下の地面に荷積みの跡らしい車のへこみが残っていた。猛烈な勢いですっ飛んで行ったから、荷台に満載した「つづら」か箱が「踊る」ようにがたがた揺れていたが、一体「中身は何だろう」。
「――と言うわけだ」
それが気になったのは本当だからまるっきりのごまかしではないのだが、訝しげな表情になった伏木蔵が怪士丸に目配せをしたので、三木ヱ門は三たび心臓をどきりと跳ねさせた。平然を装ってわざとゆっくり胸の前で腕を組み、僕は何かおかしなことを言ったかなという顔を作る。
「荷車を牽いていたのは一、二、三年生だったな。久々知先輩たちは見掛けても、そちらは見なかったか」
「いえ。見てます。知っている、と言うか、」
伏木蔵の視線を受けた怪士丸があやふやな口調で答える。少し困った顔をして、なぜか言いづらそうな態度をする。
「きり丸と久作先輩です」
「ああ、それじゃあれは図書委員だったのか」
学園長の庵へ書物を運ぶのにひとりずつ腕いっぱいに抱えて持って行くだけでは飽き足らず、荷車を持ち出して一気に大量輸送する手段に出たのか。確かに紙はまとまった量になると車が沈むくらいに重いし、書物を傷めず積み上げるには容れ物に入れたほうがいい。きり丸たちが随分と鬼気迫る勢いだったのは、図書委員長がとうとう堪忍袋の緒を切ったからだろうか。
「……ん、待てよ。図書委員会に三年生はいないよな」
「三年生は」
口ごもる怪士丸に代わって伏木蔵が言う。
「保健委員の数馬先輩です」
「あれ? 数馬は委員会の当番じゃないのか」
水汲みと消耗品の受け取りに行ったと乱太郎に聞いたのは、そう言えばもうだいぶ前のことだ。もう医務室に戻っている頃合いなのに、どうして図書委員と一緒に荷車を牽いているんだ? ……まさかここにも裏取引の網が伸びているのか?
「巻き込まれ、です」
腕を組んだまま渋面になりかけた三木ヱ門に伏木蔵はそう言い、うっすり笑った。