「なにか面白いことがあるんですか?」
「久々知先輩が踊るつづらを持っているんですか?」
「竹谷先輩とそれを持って逃げているんですね?」
「田村先輩はその中身を探ってるんですね」
あれよという間に断定された三木ヱ門が弁解する暇もなく、伏木蔵と怪士丸がはしゃぎ出した。
「一人で勝手に踊るつづら!」
「すごいスリルとサスペンス~」
「つづらの中身はなあに?」
「子猫か子犬か、オバケか小鬼~」
手を取り合い顔を見合わせその場で足をバタバタさせて、きゃーっと叫んで二人で盛り上がるのを、三木ヱ門は呆気にとられてただ眺めた。
まるで築山での団蔵と左吉の再現を見ているようだ。一年は組があれこれ首を突っ込みたがるのは、まあ「だって一年は組だから」で大抵説明がつくけれど、こましゃくれた一年い組も引っ込み思案な一年ろ組も、目の前に「面白そうなこと」が転がってくるとこうも他愛なく目を輝かせるのか。
それはそれとして、「踊るつづら」なんぞのことは三木ヱ門も知らない。
「残念ながら、そうじゃない」
水を差して悪いがと三木ヱ門が遠慮がちに否定すると、伏木蔵と怪士丸は団蔵と左吉のように潰れはしなかったが、ぴたっと動きを止めてしまった。
呼吸さえ止まっているような妙な緊張感がいたたまれず、三木ヱ門は口早に言葉を続ける。
「ただ僕が久々知先輩に用があるだけで、つづらはそれとは別件なんだ」
「別件?」
作り物のようにかたかたと口を開いた怪士丸が問い返す。
これこれこういう訳でと学級委員長委員会が計上したつづら代にまつわる疑惑をぺらぺら喋ることはできない。が、えーと――と言い淀んだら、きっと本当のことを話すまでじわじわじわじわ攻められる。そう考えた三木ヱ門は咄嗟に、さっき見たことを口にした。
「つづらのような箱のようなものをたくさん積んだ荷車を見かけた」